エナジーコーンモデルについて
エ ナジーコーンモデルは,エナジーラインモデルを360度回転させて全方向に適用したモデルです(図1参照).エナジーラインモデルでは,スタート地点から 噴煙が上がり噴煙柱崩壊が起こって火砕流が発生する場合や,新しくできた溶岩ドームが崩壊して火砕流が発生する場合などをシミュレーションできます.
噴 煙柱崩壊の高さ(新しい溶岩ドームの高さ)をここでは[Hc]とします.エナジーラインモデルでは,その地点で持っていた位置エネルギーが流走中に少しず つ失われて運動エネルギーや熱エネルギーなどになり最終的に位置エネルギーが0になって停止すると考えます.その減衰率は一定であると仮定すると,スター ト地点から停止地点までを結んだ線がエネルギーの減衰を表す”エネルギーライン”になります.
図1 (a)エナジーラインモデルと(b)エナジーコーンモデル
地 表面よりエネルギーラインが上にある場合(図1-(a)の1)Inside)は,そのエリア(赤色の部分)は,まだ位置エネルギーが十分あり,火砕流が到 達する可能性のある部分になります.一方,エネルギーラインが地表面よりも下にある場合(図1-(a)の2)Outside)は,そのエリアは,位置エネ ルギーが不足するため,火砕流が到達しない部分になります.
ま た,エネルギーラインがたとえ地表面の上にあったとしても,地形的に”陰”になる部分(図1-(a)の3)のOutside; Shadow zone)も,通常では火砕流は到達しませんが,火砕流の流路となる谷が回り込んでいる等の特殊な条件の下では到達する可能性がある部分です.
雲仙の火砕流の場合のH/Lの求め方
H/L比は,スタート地点からそれぞれの火砕流の最大到達地点までの流走距離(L)と比高(H)を測った上で求めます. 例 えば,図2において,6月3日の火砕流の場合は,標高1250m地点から溶岩ドームが崩落して,火砕流の先端は標高250m地点に到達したため,比高Hは 1250-250=1000mになります.また,流走距離は3600mでした.この場合のH/Lは,1000/3600=0.28になります.
図2 雲仙火山1991年5月25日〜6月8日の火砕流の流走距離
1万m3クラスの火砕流は約H/L=0.4,100万m3クラスの火砕流はH/L=0.3〜0.4となっています(宝田ほか,1993).一般に,規模が大きくなるほどH/Lは小さく(流動性が高くなる)傾向があります(図3参照).
図3 個々の火砕流の体積とH/L比の関係
火山体の崩壊で発生する岩屑なだれの場合は,約H/Lの範囲はおおよそ0.2〜0.05となることが知られています.
参考文献
宝田晋治・山元孝広・中野 司・村田泰章・風早康平・川辺禎久・阪口圭一・曽屋龍典(1993)雲仙岳1991-92年噴火の火砕流のコンピューターシミュレーション.地質調査所月報,44, 25-54.